第20章 密やかな幕引きを貴方と
所変わって、一方の鬼灯は
閻魔殿にある政務室で
煙管を吹かしていた。
彼の机には一枚の書類。
酸漿をあしらった認め印が
押されたそれには、紗英の
名前が鬼灯の字で書かれている。
「鬼灯様……!たった今
エジプトからアヌビス神が
謝罪に参られました!」
「……そうですか。では
御通ししてあげて下さい。
私も、すぐに行きますから」
彼は部下の報告に
振り向くことはせず
普段通りの声音で
そう告げると、
カンッ カンッ
灰受けに煙管を
打ち付けて
立ち上がった。
「やれやれ……やっと、
私の嫁に出来ると
思ったのに………」
その声がほんの少し
震えていたのは──……
鬼灯だけの秘密である。
【二十ノ章】
密やかな幕引きを貴方と___終