第16章 【ティファニーで夕食を】
シュルリと衣擦れの
音がして、腰紐が
抜き取られていく。
「ほら……どうしたんですか。
嫌なら私を止めてみなさいよ」
耳元で囁かれる
吐息混じりの声。
はだけた着物を割って
ゴツゴツとした男の掌が
私の腹部を滑っていく。
「……っや、ああ」
頭がぼうっとする。
脳裏に浮かぶ白澤様は
だんだん遠くなっていく
あの日の背中。
滲む涙に視界を歪ませて
強く強く目を閉じると、
濡れた瞼にキスが降ってきた。
「私が……貴女を
幸せにしますから」
こぼれ落ちる滴は
私の肌をゆるり伝って
シーツに沁みていく。
少しずつ、少しずつ
広がる涙の痕は
哀しみと喜びの狭間で
困ったように渇いていった。