第16章 【ティファニーで夕食を】
「み、見てないですよ」
苦し紛れに言った私を
地獄の鬼が見つめている。
「……本当に?」
その鋭い瞳に捕らわれて
心臓が大きな音を立てた。
ドクン
ドクン
全身の毛細血管が
これでもかと
血液を廻らせる。
私は何も言うことが出来ず
良くアイロンの掛けられた
シーツをぎゅっと掴んだ。
「紗英さん」
鬼灯様は低く私の名を呼んで、
読みかけの本を静かに閉じた。
彼のいるベッドと
私のいるベッドの距離は
50cmといったところか。
遠いようで近いような
微妙な距離感が
途端に短かくなる。
ドサ……ッ
そんな音が耳に響いた時
私の身体は鬼灯様に
押し倒されていて──……