第15章 出発前夜
鬼灯は心底驚いたといった
顔をして紗英を見つめた。
彼女が自室を訪れてくるのは
何年振りだろうか、などと
感慨深げに考える鬼は言う。
「……どうしました?」
頭の切れる凄腕補佐官は
勿論わざと羽織を忘れて
帰って来たのだけれど、
まさかわざわざ自室まで
届けてくれるとは思わなかった。
込み上げる嬉しさ
予想外の計算違い
しかし、そんな彼の喜びは
この後一瞬にして疑念に変わる。
「これ……有難う御座いました」
紗英の様子が
明らかにおかしい。
声に生気がないし、身体も
衰弱している様に見えるのだ。