第14章 薄れゆく温もりの中で
紗英は心臓が
強く拍動するのを感じた。
「気の早い人ね。
お触りは座敷に上がるまで
お・あ・ず・け・よ?」
この声は確か、
三件隣の十六夜太夫
……白澤の元専属だ。
更に追い討ちをかけたのは、
「ぼくもうがまんできなーい」
などと明らかに
泥酔した様子で
言ってのける白澤の声。
「……っ」
紗英の頬を一筋の
涙がゆっくりと伝う。
一体どういう訳で
白澤がこんな暴挙に
出ているか知らない。
知りたいとも思わない。
「こんなに……っ
貴方が好きなのに」
咽び泣く彼女の独り言は
誰の耳にも届くことなく
女郎部屋に消えていった。