第14章 薄れゆく温もりの中で
「取り敢えず今日は
もう……休みんさい」
休憩室に敷かれた布団の上。
横たわる紗英の額に
冷たいおしぼりを乗せて
檎は微笑んだ。
「……ありがとう」
力無く返す紗英の手を
握ろうとして
でも、出来なくて
「ほいじゃワシは戻ろうかの」
ポン引き狐は人懐こく
鳴いてみせて、ひとり
休憩室を後にするのだった。
「や〜ん白澤様のえっちィ」
檎が姿を消して直ぐの事だ。
女郎部屋を彩る円窓の
向こうから聞こえた
色目気だった遊女の声。
しかも、最悪なことに
一番聞きたくない男の
名前を猫撫で声で呼んでいる。