第14章 薄れゆく温もりの中で
ふと、目を覚ました紗英は
些か楽になった身体を
持ち上げて時計を見やった。
午前4時
もうすぐ地獄の夜が明ける。
妓楼にはまだまだ
多くの客がいるが、
この時間ともなると皆
お気に入りの遊女と共に
床に就いているだろう。
「(……体べとべと)」
紗英はなるべく
音を立てぬように
布団から脱け出て、
着替えを用意する為に
遊女控え室に向かった。
商売用の着物や簪、化粧品が
並ぶこの部屋には遊女個人の
私物も多く置いてある。
紗英は自身に
当てがわれている箪笥の
引き出しを開いて、
「……あ」
見覚えある鬼灯の紋羽織を見つけた。
【十四ノ章】
薄れゆく温もりの中で___終