第1章 先生と生徒
「先生。アーサー先生」
私は媚でも売るかのような声になって先生を呼んでいた
しかし何も変わらぬ余裕な表情を見せつけて、こちらを振り返る
「なんだ。ほら、折角ここまで遅刻しないで来たのが台無しになるぞ」
溜息混じりで私にそう言うけれど何故か怒りはしない
そういうところも人気な秘密なのかと思ったりもする
ただ不思議なのは私が教師という真面目な堅物に恋してしまったことだ
教師と生徒は恋愛はできない
教師側がばれたら大変な事態になるだろうから
それは私ですら分かっていることだけれど
「先生が好き。好きなんだよ私」
いつものように思いを告げる
けれど完璧に大人な余裕というやつで誤魔化されるだろう
「…お前、な。それここで言う事でもないし、第一それには答えられないと何度も言ったはずだが」
それじゃここじゃなければ言ってもいいのかと聞いたら答えは勿論ダメと返ってきた
こういうところで期待させないでほしいよな、とつくづく思う
大人とは誤魔化しの塊で構成されているといつも思う
「そういえば髪色変えたのか。秋風になったな」
その明るい茶色と付け足せば急に私の機嫌が良くなる
初めて、初めて先生が私の容姿について気にしてくれたのだ
今日は私にとって記念日となるだろう
「えへへ。この髪好き?」
「校則違反だ…でも、ほんとお前らしいな。だが破っている以上は俺だって見過ごすわけにはいかねぇ…放課後生徒指導室に来い。いいな?」
瞳が語る
お前は生徒だと
だから決して特別扱いはしない
分かっているけど
「真面目すぎ。もっと力抜いたら。モテナイゾ」
悪戯っぽく言えば少しだけ少年ぽくなった
「おい。最後の言葉は要らねーだろ」
「私、以外にはね。じゃーね。せんせ、また放課後に」
ひらひらと手を振れば先生は遠ざかっていく
私は素直に嬉しかった
髪のこと
はっきり言ってアーサー先生に生徒指導に呼ばれたのは初めてだ
どんなことであれ先生に会えるのだから、とりあえず校則に感謝しよう
「…少しむきになっちまった……ほんと、あいつは厄介だ」
そう呟いたのを知らない私は
また先生と生徒の関係を続ける
片思い、それでいい
もう少し背伸びしたらこの思い本気にしてくれるかな
「先生。生徒指導受けに来たよ」
花がまた一つ蕾をつけた