第8章 Ex.蛇たちの憂い1
Pt.3 《眩ませる》の独白
《目を眩ませる》蛇、朝比奈日和は悩んでいた。
「どうしてあんなに鈍感なのかしら」
当然だが、悩みのタネは《冴える》蛇、冴月黒刃だ。
先ほど自分は脅迫じみた警告をして来たが、あれは本心ではない。ヒヨリの策略なのだ。
「自分の中の感情にはやっと気づいたみたいだけど。……」
朝比奈日和にとって、否、《眩ませる》蛇にとって、周囲の人間の幸福こそ、自らの幸福だった。
故に、《眩ませる》蛇は願う。
永遠に幸せになれなかった《冴える》が、今回のことで幸せを手にすることを。
「……」
《眩ませる》力は、《冴える》力の派生系だった。
カゲロウデイズ──『幸福な終わらないセカイ』を生み出すことに特化した派生。
彼女の作り出すそれは、《冴える》の作り出すそれとは違い、幸せな白昼夢のようなものだ。抜け出そうと思えばいつでも抜け出せる。
だが、それは結局脳内麻薬のようなもので、ハマると抜け出せなくなってしまう。
ある意味、《冴える》よりたちが悪い。
それでも誰かを幸せにしたい。だから彼女は今回、あんな風に発破をかけたのだ。
「幸せにならなかったら許さないんだからね、クロハさん」