第1章 1.私
彼は私の容体を一通り聞き終えると、私の方へ歩いて来た。
「大丈夫?」
全身鳥肌が立った。
夢の中で話したのと全然違う。なんだこいつは。演技か?それともこっちが素なのか?と戸惑っていると彼は私に顔を近付ける。
「合わせろ」
耳元で囁かれた言葉にはっとなる。なるほど、怪しまれないようにあんな口調を作ってたのか。納得して、先ほどの大丈夫かという問いかけに言葉を返した。
「……大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「世話が焼けるなあ」
そう言って彼は、おどけたように笑った。こうして見ていると、普通の好青年なんだけど、やっぱり初対面の印象は大きい。私には彼が性格の悪い男にしか見えない。
「その調子じゃ、今日は病院に一泊コースみたいだね。今日はゆっくり休むといいよ。明日、また迎えに来る」
「うん、わかった……」
私に気遣ったような言葉を幾らか残すと、彼は病室から出て行った。……一体どういうことになっているのだろう、まあ、わからなくても困ることはないのだが。
ともあれ、彼が帰ってから程なくして、医者にまだ寝ておきなさいと促されたため、今日はもう少し寝ておくことにする。
明日帰ったら、もう少し問い詰めてやろう。