第7章 7.all ever for you.
「うーん、ねえ、クロハ」
「うん?」
ゲームをやっている手を止めて、ふとクロハに問いかける。
「クロハには、どうしても叶えたいお願いってある?」
「あー……まあ、ある」
「じゃあさあ、私のお願いは、クロハのお願いを叶えるってことじゃ、ダメかな」
「……」
返事は、ない。
顔を見上げると、クロハは、笑顔とも苦笑とも言い難いような顔をしていた。
「悪いな、彩芽。それは無理なんだよ」
「無理?どうして?」
「俺の力は自分には適用されないんだ」
自分には適用されない。
ってことはつまり、自分の願いを叶えることはおろか、他者がクロハの願いを叶えることを願っても、その願い事は空振りするということだろう。
「ふーん、そっかあ……」
残念だ。
ろくな願いが思いつかないから、そうすることでお茶を濁そうと思ったのに。
「それからな。願いは自分のことにした方が良いぞ」
くしゃっと私の頭を撫でながら、クロハは笑う。
「自分のことねえ」
考えるが、思いつかない。
と、いうよりは、たぶんだが、自分が無欲すぎるのだ。……昔から、何かを欲しいと親に強請ったことすらなかった気がする。
「……」
「ま、思いついたらでいいって言っただろ」
「ねえクロハ、たとえば、他の人はどんなお願いをしたの?」
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他のやつの願い事。俺は100年越しに、それを思い出す。
「そう……だな。例えば、愛する人と永遠に共にいられる、終わらないセカイが欲しい、とか」
「なんか、壮大だね」
「事故で失った伴侶に、もう一度会いたい、だとか」
「……」
「友達と、また会いたい、とか、それから……友達を、助けて欲しい、とかか」
指折り数えて俺は言う。
ルーチンワークのように叶え続けてきた、願いたちを。
「へええ……」
それを聞いて彩芽はなんだか目を輝かせていた。
「ね、ね。それ全部、叶えてきたの」
「おう、まあな」
(半分以上はゆがんだ形でだけど、な).
終わらないセカイを求めたバケモノには、一人だけその世界で行き続ける罰を。
伴侶との再会を望んだ男には、その代わりの家族の消失を。
友人とまた会いたいと願った少女には、その友人が殺され続ける悪夢を。
結局まともに叶えたのは、最後の一つだけだ。
「まあ、結局、本当に願いを叶えられるのは自分しかいねえんだけどな」
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