第6章 6.欲しかったもの
遥さんが帰ってから、というものの。
クロハは何故かずっとソワソワしていた。
気になって聞こうとしたが、本人としては隠しているつもりだったらしいので(いつも通りに本を読んだりしてごまかそうとして居た)、余計なことを言うのはやめておいた。
朝食がブランチだったので昼食もなし、その分、特に話すこともなく、夕食まではお互い話すこともなくそれぞれ過ごしていた。
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夕食時。
なんとはなしに、クロハが口を開いた。
「前にさ」
「んん」
「期限は30日って言っただろ」
「うん、言われたね」
「あれ、経過にも依るんだ、特に俺は」
「特にって、なにそれ」
「昔、やらかしたから」
「やらかした」
「そう。いろいろやっちまって、他の蛇の奴らにも、女王にも、前の主にも、たくさん迷惑をかけた」
「迷惑を」
「そのせいでな。信用されてねえんだ。
女王……は、まあ、性善説信じてるからそうでもねえだろうけど、
そうだな、《焼き付ける》のやつとか、さっきの九ノ瀬とか、あいつらには全然信用されてねえ」
「そ、そうなんだ……」
そんな風には見えなかったけどなあ。……遥さんには、何処と無く信用されている風に見えてた。
「そのせいで今日は少しピリピリしてた」
「あ、そうなんだ」
「もし今日中に女王から連絡が入ったら一巻のおわりだったからな」
「でも、まだ今日は終わってないよ」
「この時間過ぎたら女王からは連絡が入らないんだよ」
「へー」
時計を見ると、7時半を指していた。
やっぱ、何かと忙しいのかな。
「だから」
「だから?」
「今少しほっとしてる」
「よかったね」
「おう」
そこでクロハは会話を打ち切って、黙々と、もぐもぐと私の作った料理を食べていた。
「……ごちそうさま」
「んー、彩芽、片付けは俺がしといてやるよ」
「あっ、ありがとー」
近頃は私が作ってクロハが片付けるという構図が定着しつつある。
一応受験生である私のことを気遣ってくれているようだ。
それでも、引け目のようなものは感じるので、自分の分の食器を水につけておくぐらいはしている。
さて。
ここからはお風呂に入るまで、サボらないで勉強をしよう。
同居人の好意に応えるためにも。
「それじゃ、先に部屋に戻ってるね」
「おー」