第6章 6.欲しかったもの
ここまでのことを、謝られた。
全部。
「わがままに付き合わせた上に、気を使わせて、ごめん。……突然黙り込んだり、逃げ出したりして、ごめん」
……。
その様子があんまりいじらしく見えて、俺はつい、彼女を抱きしめてしまった。……、そのまま、落ち着くようにと頭を撫でてやる。
すると、突然彼女が口を開く。
「ねえ……どうして、優しくするの?」
そんなものは、愚問だ。
「理由なんて、あるかよ」
囁いてやると、堰を切ったように彩芽は泣き出した。
……泣き止むまでは、こうして抱きしめていてやろう。
/
結局、私が泣き止むまで、クロハは私を抱きしめていた。
私は温もりを感じながら、ずっと、ずっと泣いていた。
「……いっぱい迷惑かけてごめんなさい」
「全くもってその通りだ、バーカ」
顔を上げたら、ふざけたように小突かれる。そして彼は小さなため息をついて、笑った。
「一緒に暮らすんだから、迷惑なんかはお互い様だろうが」
……そうか、これだ、これだったんだ。
私が、欲しかったもの。
「ありがとう……クロハ」
贖罪と感謝を込めて、私は彼に感情を吐露した。
「……ん」
そして、彼は其れを寸分たがわず、過不足なく、綺麗に受け止めてくれた。
私を、受け入れた。
それだけでよかったんだ。私を、理由とか、関係なく、受け入れてさえ、くれれば。
「……クロハ、私、あなたが大好きだよ」
/
「……彩芽」
素直な好意を打ち明けられる。
心の奥がキリキリと痛む。
……この気持ちに、応えてもいいのか。
これは、今までこの感情を見下し、馬鹿にしてきた罰か?それとも、……これこそ、俺の素直な気持ちだっていうのか?
「……クロハ?」
彩芽が不思議そうに顔を上げた。
「……クロハ、どうしたの?怖い顔、してるよ」
「あ、ああ……いや……」
何かを振り払うように首を横に振る。……落ち着け、俺は、蛇だ。人間からの好意に素直に答えられるような立場にいない。
……だから、何だ?
「……」
/
クロハは、言葉を返さない。
そりゃあ、当然だ。出会って一週間も経ってないのに告白されたら、されたほうはたまらないだろう。
「……えと、その、今の好きってのは恋愛的にじゃなくて、家族とか、友達、そっ、そう!友情的な好きであって──!」