第2章 赤い次男の場合 「ネクタイ」
簡単にご飯を作り彼の前に並べた。
「ねえ、なんで正座」
かしこまって正座なんかして
背筋もピシッと伸びている彼。
背広を脱いだのに、
ネクタイを緩ませないのは何故だ。
いつものあれ。
あのネクタイの結び目に
人差し指を入れて、
左右に揺らしながら緩めるあれ、
あの私が好きなやつ、あれやりなさいよ、
と目で訴える私を無視して
唐突なことを言い始める。
「…あんさあ、
明日の朝、おはよう言うやん?」
それは今日泊まるから、の意味だと思う。
けれど、それ以上に気になるのはその口調。
「い、言うやん?」
「ん、でさあ、
明後日の朝はおはよう言えんやん?」
「う、ん?よくわかんないけど
グラタン冷めるやん?」
ほら、翔が大好きな貝入ってるよ!
食べてみないとわかんないよ!
とか心の中で言ってみる。
「…だからさあ、 ずっとおはようって
言えるようにしようと思って」
変な口調を急に辞め、
上目遣いでその大きな目を私に向けた。
「うん、翔、
おはようなら明日言ってあげるから」
早く食べよう、と続きの言葉があったのに。
「結婚してくれ…って言ってんの」