第1章 朝食編
ダイニングへ行くと二人分の食事がテーブルに並べられていた。
「…おはよ」
ちょっと居心地悪く挨拶をすると、体は鍋に向けたまま顔だけこちらへ。
「おっはー」
いつも通りの満面の笑顔。いや、いつもよりニヤけが過ぎる気もする。
「玉ちゃんなんでこの時間に家にいるの?」
「エー!じゃ、マイコはなんでいるのさー?」
「あ!」
そういういやこの人、同じ講義だわ。
バカ。あたし100%バカ。
「で、でもさッ、なにも…モグモグ」
「なぁに?」
「写メ、撮らなくてもいいじゃん」
「ふふ。だってさぁ〜、マイコが寝起きは本当はあんな感じとかさ。ちょっと得したと思って。俺はマイコってさ…」
マイコが、マイコは、マイコの…色々しゃべりながら名前を連呼されるのは嬉しい。
だけど、いつもあなたはこっちを見てはくれないのね。
ほら、今もあなたの視線の先は目の前の朝食。
他愛ない日常。
でも、二人きりでこの広いシェアハウスで朝食なんて、初めてでちょっと嬉しい。
他に誰もいないし、ちょっとくらい良いかな。
「ね、玉ちゃん」
「ん?」
まだこっちを見ない。モグモグモグ。
「ね、こんなふうに二人っきりで朝ご飯っていうのも悪く無いね」
言葉と一緒に少し前に身を乗り出すと、やっと彼は顔をあげる。
彼の瞳に映る、自分を捉えた。これで少しは認識して貰えたかしら。
瞬間、写っていた自分が見えなくなる。彼が目を細めたからだ。
「俺もいま、おんなじ事考えてた」
彼が笑うと空間そのものの空気がフッと軽やかになる。
重力を感じない。
この笑顔が私だけのものにならない事はわかってる。
彼は沢山の人に愛され、愛を与える人。
だけど、この朝食の間だけでもこの空間は私とあなただけのものって、思っててもいいかな?