第1章 朝食編
その人はいつもどこかを見ていた。
マイコ、マイコと名前を呼んではくれるけど、長い睫毛を蓄えた瞳には実はあまり私を写してくれる事はない。
ほら、今日も背中しか見えない。
自分よりも高い、細身の体躯は手を伸ばして届きそうなのに、触れられる事はない。
なんだか此処は寒いな…
身震いしながら自分で両肩をさする。
バタン、と遠くで音が聞こえ、振り返るがなにもない。
向き直ると、彼は沢山の人に囲まれ歩き出していた…
「へっくし!」
自分のくしゃみで目が覚めた。
季節は10月だというのに昨日は30℃まであがったのに。
油断したーーーーー 朝方の冷え込みは例年通りだ。
鼻をすすりながら、枕元の携帯に手を伸ばす。10:32。
こんなにゆっくり寝たのは久しぶりだった。
今日は月曜だが、先生の都合で大学の講義は全て休み。
そしてバイトも夕方から。
ビンボー暇なしを人生をかけて体感しているマイコにとっては珍しくゆっくりできる日だった。
「うー…あぁぁ…」
とよく分からない呻き声をあげてベッドから降りる。
寝ぼけ眼をこすりながらボッサボサの髪の毛のまま部屋を出る。
いつもならもう少し、髪の毛くらいは気を遣って部屋を出るのだけど、月曜のこの時間は誰もいないハズ。
「よく寝たなー…わっくん、朝ごはんは何作っておいてくれたのかなぁ」
独り言をブツブツ言いながら、ダイニングキッチンへ向かい冷蔵庫に手を掛ける。
「今日は朝からナス焼いてたよ~」
「はぇー、朝からナス。さすがはわっくんだねぇ…。ん?」
当たり前のように返答してしまったが、誰もいないと思っていたリビングの方に向き直ると、そこにはせっかく綺麗に整った顔をわざわざクシャクシャに崩した笑顔で玉ちゃんが座っていた。