第6章 変若水
山南「やはり貴方には見つかってしまいましたか。」
後ろに山南さんが立っていたのに気付いたのはその直後だった。
千月「勝手に覗いてしまい、申し訳ありません。しかし気になってしまいまして。あの液体は一体…」
山南「おや、知らないのですか。これは変若水ですよ。薬の調合があっていればこれで血に狂うことのない羅刹になれるのです。」
これが変若水か。
私の知っている変若水はもっと赤黒く、生々しいものなのだが。
千月「飲むのですか?」
山南「私はもう用済みとなった人間です。」
そう言って見せたのは苦しそうな微笑。
千月「その薬はおそらく失敗します。貴方は狂い、やむ追えず殺される。そして歴史が変わる。貴方は今死ぬべき人間ではない。」
山南さんの並々ならぬ思い。
それを悟った私は一番恐るの最悪の事態を述べる。
千月「貴方には言いました。私なら貴方の腕を治せると。」
山南「その代わり貴方は発作を起こし、倒れる。」
やはり全て分かったか。
山南「大方検討は付いています。貴方は他人を治癒する力を持っている。その代わりにその者が味わった痛みを肩代わりし、発作を起こして倒れる。藤堂くんの怪我も貴方が治癒したのでしょう。」
山南さんには一度この話をしている。
全てを話した訳ではないが、先日平助に起こった異常なまでに早い怪我の完治。
それらの情報を組み合わせれば結論に辿り着くことはそう難しくはない。
しかし、私が気になるのはそこではない。
千月「なぜそれを知りながら他の隊士に言わなかった。」
山南「貴方は今は言えないと言っていました。それはいずれ話すということですよね。それならば私が言う必要はありません。」