第6章 変若水
「母上!母上!」
泣き叫ぶ少女の姿。
あれは多分幼い頃の私。
「千月、何があっても颯太を守りなさい。私の大切な息子を。守りなさい。」
「約束する。約束するから逝かないで!」
千月「…っ」
頬を伝う涙。
その冷たさで目を覚ました。
平助「千月!目ぇ覚めたか!良かった…。具合どうだ?」
平助?何を言って…
あ、そうか。私、平助を治したんだ。
私は平助の額に手を伸ばし、前髪をさらりと撫でる。
千月「額の傷はもう痛まない?」
平助は驚いた顔をしていたけど、私の言葉を聞いて、少しだけ険しい表情に変わった。
平助「俺はもう大丈夫だけど。なんで黙ってた?俺を治したのがお前だって。そのせいでお前は倒れたんだろ?」
気付いてしまったか。
でも、当然だよね。あの時意識はあったみたいだし。
千月「誰にも言わないで欲しい。ずっと黙ってるつもりはない。でも、今はまだ…。」
話を逸らしたことぐらい、自分でも分かっている。
でも私は真実を話して1人になるのが怖い。
やっと手に入れた居場所を失いたくない。
恐怖を感じながら私は再び瞼を閉じた。
それを見ていた平助は「言わねぇし、言ってねぇよ。」と呟き、部屋を後にした。