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薄桜鬼 群青桜

第31章 希求


そこにいる誰にも気配を悟られることなく、その者はここに突然現れた。

「颯太くん……。」
「夜真木、どうしてここにいるんだ。」

 咄嗟に久摘葉を背に庇い、刀に手を添える藤堂を横目に、颯太は淡々と話し出す。

「別に今日はどうこうするために現れたわけじゃない。俺だって本当は、久摘葉を傷つけたくはない。だから、約束しろ。今は逃げないでくれ。逃げたら俺は自分の意思とは関係なく、お前らを殺さなくちゃならなくなる。」

 八瀬姫と共にいる時よりも、少し余裕を持って話を始めるが、颯太の表情は以前のような明るさも、時折見せる優しさも、殆どなくなってしまったように見える。

「八瀬姫には初霜家の血が混ざってる。……かつて、"酒呑童子"と恐れられた鬼の末裔だ。八瀬姫は先祖返りによって、その一族が持つ力を、限定的に行使できるんだ。」
「その力って……?」

「鬼としての力が自分より劣っている者を操る力。これは戦闘能力の話だけじゃない。八瀬姫は鬼としては血筋はよくないけど、八瀬家と初霜家……二つの力を持ってる。名実共に、一族の主なんだ。」

「久摘葉に直接命令できなかったところを見ると、久摘葉にはその力が通用しないってことになるのか?」


 颯太は藤堂の指摘にコクリと頷いた。


「元々俺も対象外だったんだけど。母親は純血で、父親もまだそんなに薄くはなかったらしいし。けどな、」

 颯太は鬼の姿へと変えてみせる。
 警戒して構えを正す藤堂達に気だるげな手振りで答えると、話を続ける、

「俺は、見ての通りの隻角だ。これは元からじゃない。八瀬姫が俺を管理下に置くために片方折った。俺の弱体化を図ったわけだ。」

 それだけ説明して、元の姿へと戻る。

「そんで、俺の本題はここからなんだけど、
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