第31章 希求
「その八瀬姫からの言伝だ。」
緊張感が走る。
八瀬姫との邂逅からまだ一晩。未だ整理がつかない状況の中、こちらを急かすように、既に動いているようだった。
「俺たちは仙台城を占拠した。」
仙台城。
それは山南が待つ、藤堂達の元からの目的地だった。
「仙台城!? 待て、たった二人で、一晩で落としたっていうのかよ!」
「いや、殺したのは山南さんだけだ。」
「なっ……」
他愛の無い雑談をしているかのような軽さで、颯太は答える。
藤堂があれだけ悩み、未だ結論にさえ到達できていなかったというのに。颯太はそれを、八瀬姫の命令だからという簡単な理由でなし得てしまったのだった。
「なんかいつの間にか風間さんもいるし、流石に俺一人で八瀬姫庇いながらお前らと戦うのは分が悪い。近くに野良羅刹が居るんだったら使うに決まってんだろ?」
「千姫は……どうなったの……?」
「今は無事だし、戦いに巻き込む気はない。けど、お前らを誘う為の餌にはさせてもらう。三日後、殺す。」
「話が違う! 七日待つって事になってるだろ!」
「強行策に出るまでに七日の猶予があるだけだ。千姫を救いたいならさっさと決めて、俺たちのところまで来ればいい。」
久摘葉の動揺にも、藤堂の不満にも、全く動じる事なく答える颯太の表情は、かつての明るさを全く残していなかった。
無表情。それでいて完全な操り人形ではない。諦めに似た心境で八瀬姫に従っていた。
「久摘葉、悪い。俺はもうお前を守れない。八瀬姫に従えないなら、俺はお前を殺すしかない。俺が殺して、元の世界に帰って……、それで、死んだ方がマシってぐらいの環境の中、生きてもらわなきゃいけない。」
自らの意思を持ったまま、己に逆らった行動をしなければならない。颯太は自分を完全に諦めていた。
「だから……。抗うなら、必ず俺たちに勝ってくれ。それ以外にお前が幸せになれる方法が、今の俺にはわからないんだ。」
「颯太……君……」
久摘葉と藤堂に全てを委ねるしかない。それしか、今の颯太には出来なかった。
心からの、嘆願だった。
「俺は八瀬姫と共に仙台城でお前達を待つ。危険だろうがなんだろうが、必ず久摘葉を連れてこい。」
「わかってる。久摘葉は絶対渡さない」
「その言葉、忘れんなよ。……藤堂平助。」