第31章 希求
「まだそこまでハッキリ踏ん切りがついてるわけじゃねえんだ。
覚悟を決めようって思う度、脳裏には屯所での光景が広がって離れないんだ。
口調は優しいのに厳しくて皮肉めいた山南さんもその中にいて、慕う奴も多くて…。オレにとってはそれが本当の山南さんなんだ。だから正直、白と黒みたいにハッキリ分別つけて会いに行くことは出来なんじゃないかって思ってる。」
山道を進む速度を決して落とすことなく、藤堂は本心を並べていた。
それはとても不安定で、曖昧で、死地へ向かう為の決意としては少し足りたい様にも捉えられるものだった。
「でも、それでもオレは会いに行く。山南さんが今の山南さんになっちまうまで、オレは羅刹隊として共に行動してきたんだ。…変わっていく様を見続けていたんだ。だからじゃねえけど、昔の山南さんが完全に消えちまったわけじゃないって、何処かで信じてる。それを証明してみたいって気になってんだ。」
けれど藤堂は、自分の持つ信念だけには決して妥協する事なく向き合っていた。
確固たるものでなかったとしても嘘偽りのない、正直でどこまでも真っ直ぐで、久摘葉にはそれが少し美しくも見えた。
「それとさ、夜真木のあの行動…。関係があるのかはわからないけど、昔のお前が言ってた事を思い出してさ。」
「それは…私が千月だった時の事?」
「そうそう。」
だからこそ彼女の迷いにさらに拍車がかかったかの様な、何処か不吉な瞳の光が消えなかった。
「…じゃあ、平助君はやっぱり凄いんだね。」
私とは大違い、と久摘葉は再び呟く。今にも消え入りそうなか細い声で。
自身を悲観し、その身体はどこか萎縮し、踏まれればプチッと音を立てて潰れてしまいそうなほど。
爪が食い込み血が滲む事にさえ気付かない、そんな無表情のまま、自身の右手を強く握りながら藤堂の後に続いた。