第31章 希求
ーー、久摘葉!!!」
久摘葉は藤堂の声でハッと目を覚ます。
「大丈夫か? 随分うなされてたけど。」
「ありがとう…」
首筋にじっとりとした汗が張り付いている感覚が、久摘葉にとって不快な夢であった事を教えていた。
久摘葉はそのまま上半身を起こす。
「颯太君が、死んじゃった。」
多分、私のせいで、と小さく久摘葉が続けたのを、藤堂は聞き逃さなかった。
「あいつがお前を理由に死んじまうなんて事きっとない。」
「そんな事…ないよ。私の我儘で颯太君は八瀬姫に…」
「大丈夫、それは夢だ。現実じゃない。」
「そんな事、ないの…!!!」
藤堂は驚いていた。
久摘葉がここまで声を荒げた事はなかった。暴走した感情がそのまま吐き出されていく。
「なんでなの? なんで颯太君は八瀬姫の言う事を聞いてしまうの? 私のせいで…。私は颯太君の事何も思い出せないのに、それでも守ってくれていた彼に甘えてた。私…私は…!!!」
もう久摘葉自身も自分を制御出来てはいなかった。溢れ出てきた言葉には力がこもり過ぎていて、考えるよりも先にある口に出ている様だ。
それは突発的であるが故に正直な思いで、歯止めが効かなかったからこそ隠せなかった、紛れも無い久摘葉の本心そのものなのだろう。
けれど、
「落ち着け。」
久摘葉が気付いた時には既に藤堂の暖かい腕の中。久摘葉は言葉を失っていた。
「大丈夫、大丈夫だから」
藤堂はそんな説得力のかけらもない言葉をゆっくり繰り返しながら、久摘葉を宥めていた。
「お前の不安も、きっとわかる。だから大丈夫ってのは…、その場しのぎの慰めにしかならないけど。でもな、まだ生きてる。救う方法は残されてる。」
その言葉を聞くや否や、今度は盛大に泣き出す久摘葉を、藤堂はしっかり受け止めていた。
安心も不安も混ざった、ぎこちなくて不安定な涙がボロボロこぼれていく。けれど久摘葉は決して苦しそうではなかった。
藤堂は久摘葉の悩みや悲しみを全て受け止める様に、彼女を抱く腕を緩めたりしなかった。