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薄桜鬼 群青桜

第31章 希求


ーー「私がこの世に生まれ落ちたのは、百をゆうに超えた遠き過去の事。」


 八瀬姫はそう言っていた。少女の姿を纏いながら、数多の同胞達の願いを聞き入れ、実行に移してきたと言っていた。

 しかしそれは考えてみるだけ、どうにも奇妙なものだった。
 たとえ強靭な肉体を生まれながらに持ち、人とは比較にならない程の強さと誇りを胸に掲げる鬼とはいえ、百年という長い年月をあの幼き童の姿で生き続けられるものなのか。



「もしかして…」


 久摘葉はそこまで口にしてから、結論は出さずに閉ざしていた。
 いや、わからなかったのだろう。

 まだ彼女には知らない事が多過ぎる。

 コートを脱ぎそれを上半身にかけると、無知な自分に嫌気がさした様に、夢の中へと逃げ出した。






「さあ、私と共に帰ろう。」

 八瀬姫の背後には抜き身の刀を握った颯太がいた。

「お前にはもう、何もない。失うものなどないのだろう。…感謝しているのだ、私は。お前が自分の理想に感け、その力を行使し、結果全てを忘れ去った。
 私が教えた表向きの真実も、愚かな母の末路も、強がっていたお前自身も。全て。」


 夢だ。
 これは夢だ。
 味方がいない窮地に立たされているのに危機感を感じない、どこかふわふわと軽く、この先がなんとなく想像できる様なそんな雰囲気が、久摘葉の中でそう結論付ける。


 久摘葉はその場から動かなかった。何も語らなかった。


「私は、過去だけを語った。お前自身については、何も言わなかった。何故だと思う」


 久摘葉が何も語らなくとも、この空間の時間は勝手に進んでいく。
 しかし、そんな世界の八瀬姫は、どこか寂しそうだった。
 間違いなく久摘葉に向けて言葉を放っているのに、久摘葉とは別の遠い場所を見ている様な、心を感じられない瞳をしていた。



「貴女は何故、そんな瞳をしているの…」

 八瀬姫の質問より先に、素直な疑問が久摘葉を掠めた。

 八瀬姫はそれを聞くと、ふっと微笑を浮かべたのち、こう答えた。


「私が、お前であれば…よかったのにな。」





「夜真木、自害せよ。」
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