第31章 希求
太陽が夜闇を一掃し、木々の隙間から溢れた光が羅刹の行動を阻害する昼の刻。
八瀬姫との邂逅を経て、久摘葉は特に疲弊している様子だった。
自らの存在理由、造られた訳。当然それらも衝撃的な事実だっただろう。何も知らない状態から簡単に推測ができる様なものではないのだから。
しかし久摘葉は、そんな事実を突きつけられたというのに、どうしてもそれらとは別のものに意識が向いている様子だった。
思い詰めているものとはまた違う何か。それは自身に向けたものではなく、何処か他人事の様だがまるで違う。突然の事で余計考えがまとまらず有耶無耶になってしまっている何か。そんな落ち着かない様子で藤堂の後ろから気怠げに足を運んでいた。
互いに言葉が見つからないまま、気付けば森の中を進むうちに、小さな山小屋を発見する。
「人気は無い…か。特に最近使われた形跡はないな。ま、この状態で山にこもるのも、いざって時に大変だろうしな。」
藤堂が周囲を見渡しながら言った。
見た所一般的な材木置き場の様な、仮として建てられた様な簡素なものだった。
「…平助くん、疲れたよね。そこを借りて少し休んでいかない?」
久摘葉は咄嗟に提案したものの、実際は特に藤堂の身を案じたわけではなかったのだろう。
普段より濃く感じる地面の色だけに視線を落としながら、放った言葉はもう対話でもなんでもない、ただの独り言の様な呟きだった。
苦しげな表情に無理やり笑みを足しただけの、明らかに疲れ切った表情をもう誰にも隠せられなくなっている。
異論も特になかった藤堂はその提案をどこか困った様に笑って受け入れていた。
小屋は少し手狭ではあったが、身を隠すのにはうってつけだった様でひとまずは壁に寄りかかり、2人揃って楽な態勢をとる。
「平助君、夜の間ずっと戦って疲れてるよね。夜になるまで少し休んで」
「ったく。疲れてるのはお前もだろ。」
「え?」
気を遣った久摘葉が声をかけるが、すぐさま藤堂も優しい言葉をかけていた。
八瀬姫から聞いた話について考え続け、それでも自分が今後どうするべきか決め悩んでいるその様子は、側から見ればかなりわかりやすかったのだろう。
久摘葉は自覚もなさげにぽかんと次の言葉を待っていた。