第30章 人形
鮮血を啜る大地はまるで、滴る血を今か今かと待ちわびている様で、薄気味悪い森の中。
元が鬼であるが故に、藤堂の技量は僅かではあるが劣っていた。
「…良い。邪魔者を排除せよ。隻角の鬼。」
「…めて。」
「もうやめて!」
久摘葉はもう耐えられないとでも訴える様に、そう零していた。
しかしそんな甘い言葉に八瀬姫が踊らされる事もなく、「やめたければその身を差し出せ」とあくまで優しく手招きする。
久摘葉は思わず八瀬姫から半歩退いてしまうが、擦れた砂利の音が久摘葉の冷静さを引き戻す。
今、自分の身を守れるのは自分しかいないのだ。
「…っ…………………
時間を、下さい。」
「時間を与えたところでお前の考えが変わるとも思えんが。」
絞り出した提案に対して、八瀬姫は残酷な程冷静だった。
「その提案が認められるのは、結論を出せず悩んでいる場合に限る。お前はただ、この戦いの決着を先延ばししたいだけだろう。」
八瀬姫の言葉はもっともだ。
それでも、ここでいい負けてはこちらに分がない。
「先に懐柔策を提案したのはあなた。だから、戦わず穏便に解決する事を望んでいるのはお互いに同じです。」
無力な自分を今だけは必死に抑えて、久摘葉は食い下がる。
「あなたは同族をとても大事にしている。私を利用したいのもそれだから…ですよね。
でもきっと、本当は私や颯太君を無下に扱いたい訳じゃない。」
「何故そう思う。」
「…でなければ、今になって真実を話してくれるとはどうしても思えないんです。」
「……………。」