第29章 【外伝】姫ノ願イ
変若水。
我らが生まれ落ちた世界の過去、そしてこの世界は類似している。故にお前達にも分かるはず。
常人では到底及ばぬ力を手にする事が出来る霊薬。
そして、それは元々強靭な肉体を持つ我らが取り込む事で、失われた力が蘇るとも言われる。
この世界と同様に、変若水は既に雪村家が研究を進めており、兵器としてはほぼ磐石なものとなっていた。
しかし、一族が求めているものはそれでは無い。
死んではならん。
寿命を縮めてはならん。
しかし、どの様な理由にせよ、変若水は古き時代に捨て去られた禁忌。
禁忌を用いる事に批判的な意見が多く募る事は容易に想像できる。
これをきっかけに、我々の信用を損なう事など論外。
故に機密事項を漏らす事など許されない。
研究はごく少数で進められた。
彼らはとても優秀だった。
驚くべき事だ。不死の変若水は完成に対して時間はかからなかった。
自我の損失。ただ虚ろに生きるだけの存在となり果て、自分がなぜ生きているかもわからない。いや、考える事すらない、理想形。
制限時間は限られていた。千月が死ぬ前に、奴を不死にしなければならなかった。
そう。思っていたのだ。
__________あの時までは。
まず千月に、西洋鬼と契りを交わす事を命じた。
他の民達に残ってしまった人の血を、これからも残し続ける事はない。
少なくとも、今はまだ。
千月さえいれば、鬼の復興は進む。
千月の自由を犠牲にする事で、皆が救済される。_________
しかし、
それは叶わなかった。