第29章 【外伝】姫ノ願イ
千月は自由を求めてしまった。
奴は言った
"鬼の歴史は終焉に向かっている。一族を再興する事にこんな方法しか残されていないのなら、そんなもの捨て去るべき。"
私は思わず殺してしまった。
いくら千月を誑かした下衆とはいえ、同族の民だというのに。
なんの躊躇すらなかった。
千月は、生きていた。
辛うじて。
変若水を飲ませてしまえばこちらの勝ち、だったのだが…。千月はあくまで抵抗し続けた。
身勝手にも自分を優先する奴を、私は抹殺してしまいたい程憎かった。
千月は子を成していた。
それがお前だ、夜真木颯太。
その後千月は再び子を成す。
そしてそれが新たな"千月"となる、久摘葉。
千月は束の間の平和を謳歌した事だろう。
まやかしの時を過ごしたのだろう。
久摘葉が千月と呼ぶに相応しい姿になった時。
世界は再び回り出す。