第3章 左腕
永倉「山南さん、今日も部屋で飯か。」
土方さんと山南さんが帰宅してから数日が経過したある日の事。
山南さんは人目に付く様な場所には滅多に行かなくなり、片手で真剣を振るう稽古をしているところをよく見かける様になっていた。
それは自分に対してもどかしく、いらついている様に見えた。
千月「今日は私が膳を持っていきます。」
土方「ああ。頼む。」
そんな山南さんの事を放ってはおけなかった。
膳を持った私は山南さんの部屋に向かった。
千月「失礼します。膳をお持ちしました。」
山南「桜時くんですか。入ってください。」
部屋に入ることを促され、襖を開けて膳を中に入れる。
千月「一つお伺いしたいことがあるのですが。」
山南「なんでしょう。」
千月「もし、他人を犠牲にすることでその怪我が治るのであれば、山南さんは治しますか。治しませんか。」
それは私の知る怪我を治す方法だった。
こうすることでまた歴史が変わってしまうのはまた事実。しかし、こんな山南さんを放ってはおけなかった。
山南「それはどういうことですか。」
千月「私は貴方の怪我を治せます。しかし、その反動で私がその痛覚を請負います。それでも治したいと思いますか?」
山南さんは考えが揺らいでいるのだろうか。一度目を見開くがすぐに俯いてしまった。
千月「余計なお世話かとお思いでしょうが、私も皆さんも貴方の事を心配しています。私に治せると言っても山南さんのお考えもあるかと思いましたので。山南さんの答えで私は動きます。」
そんな私の言葉を考えながらに聞いていた山南さんは結論を述べた。
山南「お心づかい感謝します。しかし他人を犠牲にして治してもしこりが残るだけでしょう。貴女が傷つく必要はありません。」
意外だった。
どんな手段でも治せるなら治すと言うと思っていた。
千月「私は山南さんのことを侮っていた様です。貴方は剣客としても論客としても秀でたお方ですが、それ以上に意志の強いお方なのですね。お見それしました。」
山南「君にそんな事を言っていただけるとは思っていませんでした。私もいつまでも意地を張ってはいられませんね。」
そう言うと膳を持って部屋を後にした。