第3章 左腕
千月「山南さんはああ言っていましたが、実際のところは…」
土方「難しいところだ。まあ、それはまたおいおいな。それと千月、遅くなったが、お前にはこれから正式に巡察に出てもらう。近藤さん、頼む。」
近藤「うむ。桜時くんには新たに結成する11番組組長に就任していただきたい。頼めるか?」
11番組。歴史上では10番組までのはず。
私が過去に来たことですでに狂い始めたのだろう。
ここで歴史を変えてはいけない。
でも、ここでそんな事を説明してしまえば、今後私がいることで変わってしまう事項全てに反論せざるを得なくなるということ。
私の知る新選組の歴史を全て話せば…
最悪の結果を変える為、安全な方へ、確実に勝てる方へ進むはず。
新選組はいずれ散り散りになって消滅する。
そんな大きな事項まで揺らいでは…
これは重要な選択だ。
どちらに転んでも歴史は変わる。
ならば、今は目の前の歴史改ざんを防がなくては。
千月「お言葉ですが、私はいつどんなことがあるのかわかりません。まして、先日入ったばかりで内情もまだ理解出来ていない様な私が組長など…」
先ほどの考えを覆い隠す様、別の言い訳を考え答える。
土方「お前の腕は相当なものだ。それを最大限に活用するには幹部に入れるのが手っ取り早いだろう。お前もその方が動きやすいはずだ。」
近藤「引き受けてくれるか?」
確かに幹部なら新選組の内情も、長州や薩摩の動きも知る機会が多くなる。情報を集める手段としては悪くない。
しかし、歴史を変えるなど…
答えに行き詰まる。一刻も早く元の時代へ帰りたいなら引き受けた方がいいだろう。
しかし、歴史改ざんを防ぐならば拒否しなければ。
どちらにも相応のデメリットがある。
どちらなら、どちらならば…
答えが一向に出る様子がなく、見兼ねたのか平助が私の肩をそっと支える。
平助「颯太って奴のこと、心配なんだろ?きっとそいつもお前のこと心配してるよ。引き受けたろうぜ!」
そうだ。大切な事を忘れていた。私にとって最重要課題。颯太もこちらにいるなら探さなくては。たとえ歴史が変わるとしても…!
千月「わかりました。11番組組長、お引き受け致します。」
土方「決まりだな。」
私が組長を任される。微笑ましい事だった。が、しかし、その日を境に山南さんはあまり口を聞かなくなった。