第28章 虚偽
____夜明けの足跡が聞こえ始めたこの時間。
少女との出会いには鈴の音が相応しいと思える。
危うさを感じさせる不安定な星々。その光を背に立つ少女の姿は突拍子もなく現れた怪奇そのものだ。
「ずっと探していた。千月」
「どうして千月の名を知っているの?」
千月、そう呼ばれる事にも意味があると、久摘葉もわかっていた。共通して、過去の自分を知っているものである証拠の様なものだ。
「私は久摘葉です。それ以上でも、それ以下でもない。あなたは誰なの?どうして私が知らない私を知っているの?」
久摘葉がそう問いかけると、少女は一瞬眉を揺らした。
しかし表情は揺らがない。幼い容姿に違わぬ妖美な佇まいを崩さずに、視線を久摘葉へ真っ直ぐ注ぐ。
「異な事を言うのだな。自分が分からない、と。己を顧みず力を振るった愚か者とだけ言っておこう。」
「愚か者…。それが本当なのか私には分かりません。でも、どうしてそんな事が言えるんですか?」
「自分を否定されるのがそんなに不快か?」
肝心な事は避けつつも、久摘葉から視線を外さない少女。
風も、森も、そして闇さえも、周辺の自然全てを味方につけているような威圧感を漂わせながら言葉を綴る。
「どうしてお前を知っているのか。愚か者だと決めつける理由は何か。本当に気になるのはそれだけなのか?」
「はい、今は。…でも、あなたが見た目通りの小さな女の子ではないのだとしたら、もっと聞くべき事があるのだと思います。」
「私の正体を探る気か。」
その問いに久摘葉は答えようとしなかったが、この状況では肯定にも等しい反応だ。
少女は少し頬を緩めると、回答を順番に並べ始めた。