第28章 虚偽
まるで未来を見ている者の様だ。
その言葉を境に沖田は急に胸の辺りを抑えながら地面へ膝をついた。
「…やっぱりね。じゃあ俺はこれで失礼するよ。今はもう駒も残ってないし、ちゃーんと殺す算段を整えておくよ。次会った時、決着を付けようか」
「っ!?待て!!」
颯太の伸ばした手も届く事なく、南雲は3人の前で森の影と同化していった。
「沖田さん!しっかりしてください!」
同時に、雪村の叫び声が颯太の耳へと入っていく。
声に誘われ沖田の姿を伺う。
沖田は羅刹へと姿を変えて苦しみ足掻く。
砂埃の舞う中、地面と繋がれた掌に苦し紛れに力を込めていた。
それでも呻き声の隙間から必死に颯太へ言葉を繋げる。
「あの子の所へ行きなよ。」
「…。お前は…、沖田と雪村はこれからどうするんだ?」
その返事は、決して倒れているものへ向ける様な声色ではない。
自分の進むべき道だけを見据えている様な、覚悟の色。
あるいは、彼はこんな所で屈するものではないと信じ、安心しているからなのか。
「落ち着いたら…、奴を追う。君たちとはもうお別れだね。」
「そうか。雪村、沖田を頼む。」
「わかっています。任せてください。」
雪村も、こんな時に笑顔を作れる強さを見せた。
それは一瞬だけ、別れの間際にだけ咄嗟に作ったのだろうが、それでも微笑んでいた。その事実で充分に過ぎる。
仲間との別れの時を見守っていたその日の夜空は群青色。
それも少しずつ明るみを帯びて、終焉へ向けて幕開けを始めた。