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薄桜鬼 群青桜

第27章 再来


「貴方は…!」

久摘葉も彼の顔は覚えていた。
雪村を執拗に付け狙い、傷つける事を厭わない残酷な表情を持っていたこの雰囲気を覚えていた。

今宵は羅刹兵を何十人と引き連れて牙を剥く。

「さあ羅刹ども、好きに暴れていいよ。こいつらの事は血を啜るなり嬲り殺すなり好きにすればいいさ。」

自らも抜刀し悠々と嘲笑っては、その切っ先を迷う事なく雪村へと向け、憎悪を露わにしている。

「藤堂、沖田、気を付けろよ。こいつら綱道んとこの羅刹だ。新選組のとは少し違う。」

「わかってるって。どのみちこんな所でくたばっていられねえだろ!」

颯太はすぐ様鬼の姿と化す。
右側にだけ生えた一角の角が覗いた時、彼の周りを今まで感じた事のない不思議な威圧感が繕われていた。

藤堂もまた、それを横目に羅刹の姿へと変じると、互いの血を浴び合う戦いが始まった。


「流石だね。でも、こいつらの守りが手薄になってるんだよね。」

藤堂たち3人が羅刹の相手で手一杯になっているその隙を見逃さない。
これが目的だったとばかりに、視線を久摘葉と雪村へと突き刺す。

「雪村さん、彼の目的は貴女です。ここは危険ですし、少し離れましょう。」

少しでも血を見ない様にと視線を逸らしながら雪村の手を引く久摘葉。

しかし、

「残念。」

守ってくれる人がいなくなったもう片方の腕を強く握られた。

「今日はこっちに用があるんだよね。」

鼓動が強く、早く打ち付けられるのが久摘葉自身にも分かった。
喉が細くなる、腹部から何かが逆流している、そんな錯覚に見舞われながら。

それでも巻き込まない様にと咄嗟に雪村の手を離すと、そのままゆっくり木と木の間の闇へ、静かに吸い込まれていった。

「久摘葉!クソッ…お前ら邪魔だ!久摘葉!久摘葉!!」

何度も聞こえた彼女を呼ぶ声は、握られ痛みを伴っていた左腕の感覚と共に脳裏にひどく焼き付いていった。
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