第27章 再来
これは同日の朝の事。
「これ…私に?でもどうして…」
慣れない洋装に身を包んだ久摘葉は問いかける。袖口をいじりながら自分自身を見回せば、昨日までとは一変した姿が瞳に飛び込んでくる。
軍隊の制服を模して作られたワンピース。
黒を基調としたダブルボタンのコートと、その隙間から見える藍色のアンダースカート。同じ藍色のリボンが胸元で揺れていた。
「これからお前が行くのは戦場。今までは逃げる事一択だったけど、次は違う。自ら敵地に乗り込むんだ。西洋化された部隊が主だっている今、和服は目立つし、
いざという時着物よりは走りやすいだろ。」
「…そっか。私の事まで心配してくれてありがとう。」
「それは…当然の事だし。お前が気にしなくてもいいんだけどさ。」
着物よりは走りやすい、とは言ったもの。着物よりは幾分ましであれど、所詮は女性服。たかが知れている。
それでも尚男装を強要しなかったのは、未だ千月が戻らぬ事を祈る颯太の心境がそのまま現れたのだろう。
「…本当に行くのか?」
「行かなきゃいけないの。行かなきゃ何も終わらないし始まらない。」
いつもと何ら変わりのない綻びを見せる久摘葉を見て、影の差した瞳を閉ざす。
「…そうか。」と、ただその一言だけを空中に手放した。