第26章 連鎖
どんな立場に置かれようと、足早に去ってしまった時間は取り戻せない。
それがどんなに取り戻したい時だとしても、大切なもの程瞬く間に過ぎ去る。
久摘葉はそんな世界の本質を確かめる様に空を仰いだ。
雲ひとつ無い夕焼けが、憎いと言わんばかりに瞼を伏せて、震える体を必死に抑えて。
でもそれは周囲から見ればあからさまに違和感のある姿で。
「ったく、こんなになっても一人でなんとかしようとすんだからなぁ。」
「えっ…」
ぼうっとしていたせいで、久摘葉は最初、自分の身に何が起こったのか理解できなかった。
「なんの為にオレがいると思ってんだよ。」
自我を取り戻した時にはもう遅かった。
藤堂の腕の中にいた。
「一人で抱え込まなくていいんだよ。誰かに頼ったっていい。」
久摘葉は思わず呼吸すら忘れてしまう。
藤堂の手は氷の様に冷たい。羅刹の手。この手を何度も真っ赤に染めてきた。
でも今は違った。久摘葉を撫でる手のひらは割れ物を扱う様に優しく、暖かくも思える大きな手。
その手に導かれた涙は久摘葉の頬を伝う。
痛みを覚えた子供のように泣いた。藤堂の胸に縋りながら、泣いた。
しかし涙が大地を濡らす事はなかった。
もう負の連鎖は止まらない。それでも前に進むしかない。未来を照らす為に。