第26章 連鎖
「颯太君待って!まだ平助君が!」
すぐ様久摘葉を見つけ出すと、彼女の言葉を聞き入れる事はなく、強引に手を引いて脱出した。
裏口からでもわかる切羽詰まったこの状況。敵兵がジリジリと金子邸との距離を詰めていく様子は、今だ中に残っている隊士達の姿や、付近で存在を確認出来なかった藤堂への心配を募らせていく。
そして、脱出した2人を待っていたもの。
…まだ到着したばかりだというのに情報が漏洩したという事実は、彼らにかなりの動揺を与えるでしょう。幹部の首も取りやすいのではないでしょうか。」
聞こえてきた会話はまさしく今の新選組の状況を作り出したであろう内容。
そしてその会話をする一人は久摘葉にとっては聞き慣れた卑しい声の持ち主。
やっと見つけた事の元凶。しかし一向に久摘葉は動かない。
今何と言っていたのか。
幹部の首を取ると言っていた。
誰が?
新政府軍が実行するようだ。
それを促したのは?
例え先日の一件があったとしても、"元"だとしても、一時は仲間として過ごしていた山南の変わり果てた姿は、今でも驚愕を覚える。
手足はわなわなと小刻みに震え、口から溢れる途切れ途切れの吐息は空気を振動させ、そして遠くの相手にも気配を送ってしまう。
「おや、やはり貴女は先に逃がされたのですね。予想通りです。さあ、私と共に行きましょう。」
黒く染まったその手を久摘葉に向け伸ばしていた。