第3章 左腕
永倉「相変わらずせこい晩飯だな。…という訳で!」
すかさず平助の魚を一口。
平助「おい新八っあん、なんで俺のおかずばっか狙うのかな。」
永倉「それは体の大きさだ。でかい奴はそれなりに食う量が必要なんだよ。」
平助「じゃあ育ち盛りの俺はもっと食わないとね!」
永倉「あまい!」
すかさず永倉さんの魚を丸ごと狙う平助。
それを制して頭から丸ごとかじりつく永倉さん。
千月「平助、よかったら私の少しどうぞ。少食でそんなに食べれないから。」
平助「いいのか!ありがとな千月!」
そう言って魚を半分ほど取っていく。
そんな中、井上さんが顔を見せる。
井上「みんな、ちょっといいかな?土方さんから知らせが届いてね。」
千月「大坂で何かあったのか…。」
私の言葉を肯定するように話し始める。
井上「山南さんが重傷を負ったらしいんだ。幸い命に別状はないけど相当の深手だと文に書いてある。」
この事件で山南さんは真剣を振えなくなる。
それは私の知る紛れもない事実だった。
そして、それは皆察している様子だった。
沖田「いざとなったら薬でも飲んでもらうしかないのかな。」
永倉「幹部が新撰組入りなんてしてどうすんだよ。」
千月「今あの薬を使えば山南さんはまず間違いなく血に飢えた化け物になるだろう。使うとしても研究が進んでからでないと山南さんを失う事になりかねん。」
平助「千月! お前知って…」
その質問に頷く。
千月「現状ではあの薬を使えば理性を失うと聞いた。一度理性を失えばもう正気には戻らん。しかし放っておくわけにもいかぬだろう。結果的に殺処分になるだろうな。」
斎藤「なんにせよこのままでは総長は真剣を振るうには難しいということだ。最終的にどうするかは本人次第。我々がどう言おうが関係の無いことだ。」
そう。斎藤の言う通りだ。
しかしこれは他人事ではない。
幹部を失う可能性。それは新選組にとって痛手となるだろう。
冷めた緑茶を口にしながらそう思った。
この日の月はとても眩しく、現実だと訴えているようだった。