第25章 変動
久摘葉がこの事実を知ったのは、当日の事だった。
久摘葉の部屋へ訪れた原田、永倉の二人。
最初こそ予想もしていなかった久摘葉だが、話を聞けば、心当たりがあった様で、驚く事はなかった。
近藤に反論する永倉を知っていたから、少なからず何処かで察していたのかもしれない。
それでも不思議と空気はいつも通りで。
「どうしても行ってしまうんですか?」
「ああ。昨日今日で決めたことじゃないからな。」
いつも通りだからこそ、当たり前に寂しくなり、悲しくもなる。
静寂はそんな感情だけを残して循環していく。
「ごめんなさい。お二人がいる間に思い出す事が出来なくて。」
必死に絞り出した言葉も、中身のない曖昧なもので。
それでもその言葉を聞いた二人は、互いに顔を見合わせ口角を上げる。
その表情は紛れもなく、藤堂と三人で笑い合っていた楽しいひと時に見せる顔そのものだった。
「だったら、いつかお前の記憶が戻ったら、思い出した事全部平助に話してやれ。きっと喜ぶだろうしな。」
「ああ。間違いねぇ。」
原田の頼もしい手が、久摘葉の頭を軽く叩く。
永倉も笑っている。
それが最後だった。最後に交わした言葉が、あまりにも久摘葉のよく知る姿で放たれた言葉だった。気付けば釣られた様に久摘葉も笑っていた。