第25章 変動
_____、久摘葉!大丈夫か?」
目を大きく見開けば、そこはまだ薄暗い部屋の天井が広がっている。
「随分うなされてたけど、具合でも悪かったのか?」
「…ううん。ちょっと夢見が悪かっただけだから。ごめんね颯太君。心配かけちゃって。」
「あー…オレは平助な。」
「え…?だって…え?」
山南が千姫を連れて姿を消してから数日後。甲府へ遠征していた部隊が帰ってきた。
そこで初めて目にしたのは洋装を纏った隊士たち。
新鮮さと同時に、戦の激化が伺えるものだった。
藤堂は遠征に不参加だった為、洋装姿になるのは皆より一足遅かった。
今久摘葉の前に立つ藤堂はまさしくその洋装姿。
「髪、切ったんだね。」
風にたなびかせていた長い髪の毛をバッサリ切り落とし、唯一颯太と違っていた点すらも重なった。
「まあな。…変か?」
「ううん。似合ってるよ。」
殊の外、事件前の様に明るく振る舞う久摘葉だが、実際のところはかなり落ち込んでいるだろう。
いつ崩れてもおかしくないような不安定な心境でいる事はまず間違いない。
「…無理する必要なんかどこにもないからな。強がらなくていい。一人でなんとかしようなんて思わなくていいからな。」
そんな様子を感じ取った藤堂は、久摘葉と同じ目線に下がり、頭をポンと叩く。
久摘葉の視界に広がった藤堂の柔らかな笑みは、凍ったように固く、冷たくなった心を溶かしていった。