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薄桜鬼 群青桜

第24章 消失


「そうですか。流石は純血鬼…と言ったところでしょうか。どうやら調教が必要な様ですね。ここは引きましょう。」

糸が切れた操り人形の様に、千姫を完全には思い通りに動かせない山南。

長居をして正気を取り戻されてはと思ったのだろう。千姫の意識を奪うと抱き上げ羅刹の影に消えた。


追おうとしても、羅刹兵はそれを許さない。

その後羅刹は全て倒したものの、山南を追おうにも、その影形は何処にも残ってはいなかった。

敵が消えた瞬間、強い脱力感に見舞われた久摘葉はその場に力無くへたり込む。

不思議と涙は出なかった。
それはもしかしたら、既に救い出す方法を見つけ出そうと思考を巡らせていたからなのかもしれない。

「助けてくれてありがとう。平助君も無事で良かった。それに風間さんも。」

未だ殺伐とした空気で入り乱れている中、久摘葉は言葉を発した。


久摘葉と離れた後、藤堂が羅刹と戦っている付近に現れた風間は、薩摩藩の命である辻斬り退治を行っていたという。

風間もまた、羅刹を快く思っていない。一時共闘し、全ての羅刹を斬り伏せてきたという。
そして屯所まで来たのだ。


「元となった人間が戦いに不得手とか言ってたな。それにあの数。山南さんはいったい何をしようっていうんだ?」

久摘葉もまた、山南から聞いた事を全て話した。
辻斬りの狙い。山南の目的。そして自分を狙っている理由。

「脳が腐敗したか。次にその姿を見つけ次第八つ裂きにしてくれる。」

風間はまだ収まりきらない怒りを壁にぶつけていた。
その瞳は殺気で満ち溢れ、怒りという言葉だけでは圧倒的に足りない感情を静かに膨れあげていった。

「ダメです。もし山南さんを見つけても殺さないでください。」

その風間に喰い気味に言って放つ久摘葉。

「確かに山南さんの行為は絶対に許されない事だと思います。でもこれはあくまで新選組の問題です。怒る気持ちもわかりますけど、風間さんは手を下さないで下さい。」

「あの男を放っておけと言うか?お前は本当に堕ちたな。」

「なら、これでどうです?」

久摘葉は袂から群青桜の簪を風間に向ける。
鋭い吐息を吐き、怪訝な表情を残して去っていった。


負の感情が屯所内を巡る中、山南は憎悪を残し消失した。
千姫の安らかな残り香すら掻き消して。
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