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薄桜鬼 群青桜

第24章 消失


「まさか助けに現れたのが千姫だとはね…。しかし彼女も純血の鬼。羅刹の盟主となるには十分な逸材です。」

どちらが羅刹の盟主となろうと、山南にとっては好都合の様だ。勝ち誇ったように黒い笑みを見せるが、その笑いは、たった今駆けつけた藤堂や風間にも大まかな事の生い立ちを理解させる。

千姫を見れば更に正確な情報を得られる。口元に残る赤い何か。光を通さない瞳。

「山南さん、千姫に変若水を呑ませたのか!」

「変若水?いいえ。今の私にはそんな物必要ありません。人の善悪に捉われず血を求め続けた結果、私は西洋鬼と同等の力を得たのです。彼女に呑ませたのは私の血。私の血を呑めば、私の命だけを遂行する従順な羅刹と化すのですよ。」

藤堂の問いに対して、罪悪感どころか、達成感に満ち溢れた声色で悠々と語る山南。
彼は変わってしまった。昔の仲間思いの彼の姿はもう何処にもないと、試衛館時代から関わりを持つ藤堂ですら納得せざるを得ないものであった。

そして、鬼として、純血鬼を手にかけた事に対する怒りを覚える者も。

「元々、千姫も羅刹にするつもりでしたからこれはこれでいいでしょう。鬼ですら屈服したことを世の鬼に知らしめる事が出来ますしね。
しかし久摘葉さん、貴女は必要不可欠な存在です。羅刹のさらなる強化の為、私の手の中に落ちて頂きましょう。」

その言葉を合図に、久摘葉を囲む羅刹達は一斉に刀を構える。
何処からも逃げ道などないと威嚇するかのように。

「戯言は済んだか。貴様ごときが鬼を名乗るだと?ふざけるな。薬の効能に屈服した人間以下のザコが、鬼を手にかけるとは、余程俺に嬲り殺されたい様だな…!」

押し殺したような厚みのある声色。その姿に目を向ければ、鬼本来の姿と化した風間。
余程怒りを覚えた様で、羅刹兵を次々に斬り飛ばしていく。

風間に押されるように、藤堂もまた羅刹へと姿を変え、久摘葉に手を伸ばした。

「成る程。やはり元となった人間が戦いに不得手だと、捨て駒程度にしかならない様ですね。ならば千姫、貴女に久摘葉さんを捕らえて頂きましょうか。」

しかし久摘葉を救う事を、山南は許さなかった。

「誰が…あんたの命令…なん…か…。」

拒否する千姫だが、言葉とは裏腹に逆手持ちで小太刀を構えていた。それでも動きは鈍く、完全には操られてはいない様だった。
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