第24章 消失
そして次の日の夜から、早速藤堂が久摘葉の部屋へ顔を見せるようになった。
最初こそ楽しげに会話が弾むものの、後に本題となる山南の事が脳裏に浮かぶ。
「ここ最近の山南さんの様子、明らかにおかしいよな。」
「うん。」
藤堂の同意を求める声に対して、何のためらいもなく肯定する久摘葉。
この二人に限らずとも、山南の不信感を感じているものは多いはずだ。
しかし藤堂が話し出した山南の事は、同じ羅刹だからこその疑問であった。
「山南さんが羅刹になった時期、覚えてるか?」
「確か…西本願寺に屯所を移す前…だったかな…?」
「ああ。羅刹になってもう三年経ってるのに、それにしては異常がないと思わないか?」
久摘葉からしてみれば、記憶が抜け落ちている事もあり、はっきりとは言えないものの、確かに違和感は感じていた。
「羅刹の力の代償はその人の未来だったよね。それに吸血衝動もあるし。
でも確かに今の山南さん、血を欲しがってるところも見た事無いし、寿命が近い様にも思えない程生き生きしてる様に見える。」
本来なら今の久摘葉に要らない心配をかけることは得策とは言えないだろう。
しかし戦場に立つ事の出来ない久摘葉は、必然的に羅刹隊と共にいる機会も多い。万が一に備えて、最低限の事は知っておく必要がある。
それが藤堂の、そしておそらく颯太の考えであった。
「多分山南さんは血を飲んでる。そうじゃなきゃ、あんなに冷静で居続けるのは無理だ。」
藤堂も、先日自我を失ってしまった。その一件を受けて、羅刹の狂気がどれほど凶悪なものかは身を持って知った。
「山南さん、どんどん羅刹隊を大きくしようとしてる。これ以上人員を増やして…。敵も味方も両方犠牲が増えるだけなのに、どうして…。」
そして久摘葉もまた、狂った羅刹を知っている。
更には、山南からは羅刹強化の協力を求められた。
山南に対する不信感が屯所を悠々と包み込んでしまうほどの重い空気となって流れていった。