第23章 敗走
先程も冷たくあしらわれた事で、再び自分の意思を伝える事に抵抗がある久摘葉。
それでも何かが変わるなら、自分にも何か出来るのなら。
「風間さん。」
覚悟を決めた久摘葉はゆっくりと袂から簪を出すと、握りしめた右手を視線の先に真っ直ぐ伸ばした。
「私には記憶がないんです。自分が何者か忘れてしまって。自分で思い出そうとしながらも、何処かで誰かが教えてくれる事を待っていたんです。でも、聞いただけでは何も変わりませんでした。ただ今の私が得た情報が新しい思い出として新規に記録されただけだったんです。」
足りない物は間違いなく本人の心だろう。自分の心を知るのは自分のみ。
他人からの客観的なあらすじだけでは断片的でしかない。
「他人から聞くことも勿論大切かもしれない。でも、最終的には自分で考えて、感じて思い出すしかないんです。
それには、思い出したい当時と同じ場所、信じられる人達の元にいる事が一番だと思うんです。
だから私は、これからも新選組に居ます。きっと皆さん、私が鬼だと知っていて尚、受け入れて下さっていたんです。だから!」
自分の意思を確実に、丁寧に伝える久摘葉。
織り込まれた言葉一つ一つに久摘葉の強さが紡がれる。
確かに風間の言う通り、以前と比べれば弱くなってしまったかもしれないが、決意の表れを見ると、全てが弱くなってしまったわけではない。
「成る程。そこまで覚悟が出来ているのなら何も言えまい。」
「え?」
その久摘葉の出した結論に、殊の外あっさり承諾する風間。
「何を惚けている。お前の意思を汲み取ってやったのだぞ。」
予想外の反応に久摘葉、そして藤堂は驚いた表情で動揺している。
「家柄の都合上、流石の風間も逆らえないのよね。」
「風間さん、本当はこうなる事分かっててあんな言い方してたんじゃないか?わざわざ悪役に回ってくれたとか。」
「何の話だ。」
一方で千姫、風間、颯太の三名は緊迫していた空気を緩め、先程からは考えられない穏やかな会話を交わしていた。