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薄桜鬼 群青桜

第23章 敗走


先程より緊張は解けたものの、今だ油断を許さない緊迫感は続く。

そして久摘葉はまだ不安要素を抱えている。

先程の銃弾を受けても尚、すぐに完治した事は不安を加速させるだけの材料になった。

「久摘葉、今は先を急ごう。不安なのもわかるけど、ここにも敵は潜んでる。敵に襲われたら、さっきみたいに上手く逃げ切れる保証もない。」

「ほう。愚かな人間にしてはよく分かっているではないか。しかし気付くのが遅過ぎた様だな。」

敗走を許さないとばかりに現れた風間と天霧が行く手を阻む。

「倒幕も近い。いつまでも幕府側に置いておいてはいくら千月であろうとも身の安全は保障できん。
我らと共に来い。」

風間達もまた敵であることは、久摘葉も理解している事であり、また、その力量は言うまでも無いだろう。

「千月…?それは誰ですか?」

「何?」

それより久摘葉が気になったのは千月の存在に他ならなかった。
風間に限らず、今までも多くの人から千月という名前を聞いた。
それは全て久摘葉自身に向けられたものだった。

「それは私の名前なのですか?」

「当たり前だ。お前以外に誰がいるというのだ。なぜくだらない事を訪ねる。」

「え…?」

久摘葉にとってはくだらない事などではない。ただ真実を知りたいが故に聞いていただけだ。

「以前と様子が違うと思えばこれか。人間と共にいた事でここまで低落するとは呆れたぞ千月。やはりお前は早急に我らが里へ連れて行かねばならんな。」

久摘葉の前に差し出された手。
それは恐怖対象であるはずなのに、久摘葉にとっては救済の掌にも捉えられた。

この手を取れば、間違いなく求める情報が手に入り、尚且つ戦場に出される事も無く安全だろう。
それは何となく察する事が出来た。

それでも不安定な状態で全く知らない場所へ行く事への抵抗も働いた。
迷いによって体が縛られ動けない。

久摘葉はもうどうすれば良いかなど分からなかった。
目の前の救済の手に縋り付くのか、それとも信頼に身を任せるか。

「久摘葉はオレ達が守る。それで十分だ。それは久摘葉自信が選択した結果だし、オレもこいつを守ってやりたい。」

久摘葉にとって信頼に値する相手。藤堂は久摘葉の前に立ち、風間と向き合っていた。
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