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薄桜鬼 群青桜

第23章 敗走


深い闇の中をただひたすらに走る藤堂。戸惑いながらも付いていく久摘葉。

なんとか足が動くのは、藤堂が手を引いているからだろう。

走っている事で足音が周囲に伝わり、居場所を伝えていく。
しかしある程度距離がなければ、見つかるのも時間の問題だ。

加減を間違えれば命に関わる。

逃げながらも生きる選択肢を考え、選択し、戦わなければならないこの状況下で、久摘葉はまだ自身の存在に整理がつかないでいる。

羅刹ではないという安堵。一方で、新たに浮上した可能性。
久摘葉にとってそれはこの場で知っておかねばならないと思っていたのだ。

しかし生死の狭間に立たされている今、落ち着きを許さない今はゆっくりと真実を受け入れる準備など整うはずもなく、むしろ恐怖が掻き立てられる事項に成り果てた。

久摘葉の様子がおかしい事は藤堂も察していた。
それでも今はどうやってやり過ごすかが最優先だという事に変わりはない。

強引に久摘葉の手を引き、近くに聳えていた大木の陰に隠れる。

久摘葉は走った疲れから木に背を預け、平助はその木に片手を付き、敵兵の様子を伺う。

遠くで聞こえる捜索の声、荒い足音。
久摘葉が内に秘める不安と、外敵からの恐怖が一度に襲いかかり、呼吸が敵に居場所を伝えてしまうのではないかとまで思ってしまう。

藤堂の真剣な横顔を目の前に、久摘葉も背後の気配を警戒しながら身を潜めた。

距離があったおかげでなんとかやり過ごす事が出来たようで、足音は遠ざかっていった。

「なんとかなったみたいだな。」

不安が一つ、解消したことで久摘葉に一時の安堵が戻る。その緊迫が解けた事で今のこの体制がどういうものなのか、ようやく理解できた。

姿を隠すためとはいえ、一本の木の陰に密着して隠れていた二人。

急に恥ずかしさが込み上げてきて、久摘葉は一気に頬を赤く染める。

「ん?久摘葉どうし…た…!!」

先程とは違う意味での緊張。それを察した藤堂もまた自分が久摘葉に覆い被さるような体勢でいた事にようやく気付いたのだった。

こんな状況で、いや、こんな状況だったからこそ、日常のありふれた幸せを少しだけ噛み締める事が出来た。
それは一時の安らぎを与えたのだった。
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