第23章 敗走
今の久摘葉にとって考えられる可能性はこれだけに尽きた。
自分は羅刹だったのか。変若水を飲んだのか。
そして、
もし仮にそうだとしたら、吸血衝動の具合はどれほどのものなのだろうか。
狂ってしまったら、大切な人達を見境なしに傷つけるのだろうか。
考え出したら止まらない負の連鎖に身震いする。
そんな久摘葉の様子を伺いつつ、質問に動揺しながらも、藤堂は今必要な事だけを口にした。
「多分飲んでないと思う。」
藤堂の答えは久摘葉は羅刹ではない。というものだった。
「少なくとも、オレの知る限りではな。どうしてそう思ったんだ?」
「さっきの首の切り傷がもう治ってたの。こんなに早いなんて思ってなくて。人の物とは思えなかったの。」
羅刹でないとしたら、この治癒の速さは一体何が引き起こした物なのか。
久摘葉は何処かで自分の正体に気付きながらも、それを信じたくないとばかりに藤堂に問う。
藤堂も、久摘葉の記憶が戻ってしまう事を思うと、流石に言い辛い様で。
暗い森の中で目を泳がせながら戸惑っていた。
その時、久摘葉の頬にかする銃弾。そのまま木に命中し、葉が小さく揺れた。
「居たぞ!幕府側の敗残兵だ!」
「久摘葉!っ!敵兵か!」
新政府軍に見つかった。今は悩んでいる場合ではない。
頭ではそうわかっているはずなのに、精神は思い通りに働いてはくれなかった。
既に頰から痛みが退いている事で久摘葉の正体の予想に真実味が増した。