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薄桜鬼 群青桜

第23章 敗走


「う…そ…。」

戻った久摘葉に衝撃を与えた光景。
それは炎に包まれた奉行所だった。

「皆さんは…皆さんは無事なんでしょうか!」

「安心しろ…とは、この状況で言えねえが、生きてる奴は全員外に出た。」

感情のままに叫んだ久摘葉の問いに答えたのは土方だった。

薩長軍の砲撃を幾度となく受けた事で遂に火が回った奉行所。
今は敵の目を眩ませる為にそれぞれ散り散りに撤退しているという。

「でも…それでも帰る場所が…」

久摘葉はこの光景を一度目にしていた事があった。
今はもう治癒の代償として消えてしまった記憶だが、その時に感じた感情は、どこかから引き出されたような、2度目とも思える嘆きを覚えた。

火炎舞う見慣れた建物を前に力なく立ち尽くす。
断片的ではあるものの思い出した様で、頭を抑えながら押し寄せる恐怖に身を震わせていた。

その久摘葉を支えるのは、やはり藤堂だった。

「大丈夫だよ。元々戦の体制を整える為に幕府から借りていたところだし、屯所とはまた違うから。帰る場所が無くなったわけじゃない。落ち着けって。」

藤堂も口ではそう言っているが、理解はしているはずだ。
人数的に優位に立っていたとしても、新型の兵器に押されているこの事実を。

それでも励ましてくれる藤堂の言葉を今は鵜呑みにする他なかった。
久摘葉にはそれ以外に落ち着く術を持ち合わせていなかったのだから。

藤堂と久摘葉も今は再起を信じて敵の目に付かないように森の中へ逃げていった。
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