第22章 羅刹
「羅刹になったの、黙ってて悪かったな。」
久摘葉に黙っていたことを謝罪した。
「驚いたけど、平助君はちゃんとここにいるからいいの。でも…」
久摘葉が気にかけていたのは他でもなく寿命に関するものだった。
「颯太君も言ってたよね。意図的に自身を死に近付けるって。いいのかなって。」
「オレが変若水飲んだのって、その話を聞く前だったんだ。それにその事を知ってたとしても、オレは変若水を飲んでたと思う。」
藤堂が変若水を飲む決め手となったのは他でもない千月。
今こうして彼女を守りきれたことは本望。同時に千月への未練の様なものも存在するのが事実。
たとえ千月と久摘葉が同一人物だとしても、今まで藤堂を助けたのは千月。そして千月はもういない。
もどかしい気持ちを引き摺り続けてここに立つ。
久摘葉は藤堂の切ない姿を見て励ます。
「私ね、あの時凄く怖かった。血が飛び交って、つん裂くような叫び声がこだまして。いきなり外に逃がされて嫌いなものを見せられた。
それでもここにいるのは、平助君が助けてくれたからなんだよ?
今は体を休めて。いつもみたいに笑って欲しい。笑っていれば自然と心も温かくなるから。」
やんわりと微笑む久摘葉。
久摘葉には藤堂の苦しみはわからない。それでも守ってくれた事に対して恩を感じているのだ。力が無くとも、出来ることはある。
「残ってる記憶の半分以上が平助君とのものなの。笑って、葛藤して。その一つ一つが一際輝いて見える。
その時の自分の感情は思い出せないのに、その時の私は幸せだったんだって信じて疑わないの。」
その言葉の示すものとは一体何なのだろうか。
その言葉の中に千月の感情が混ざっているのだろうか。久摘葉が千月の感情を想像しているだけに過ぎないのだろうか。
どちらにしても、藤堂にとってありがたい物という事に変わりはなかった。
「ありがとな千月。オレ、羅刹の狂気に負けそうになって、お前すらも自分の糧にしようとして。でも人である時まで悩んでなんか居られないよな。
もう狂気に負けねえように、自分の意思を強く持ってないとな。」
自然と出た言葉の中には千月。
その存在感はやはり藤堂の中で大きく、久摘葉にとっては何者なのかという疑問。
千月の存在は、これからも各々の心を揺さぶるのだろう。