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薄桜鬼 群青桜

第22章 羅刹


その胸の内に秘めた言葉を見透かしたような藤堂の悲痛な叫びを聞いた。
その心からの叫びに久摘葉は目を細めて一粒涙を流した。

「藤堂君。それでいいんですよ。それが正しい羅刹の在り方です。」

「山南さん…」

「血が欲しいのであれば求めればいい。その濡れた刀を舐めとればいいではありませんか。
貴方はもう人ではない。人道的でないからと拒む必要が何処にあるのですか。」

積み上がった屍、血の匂い。その中に現れた山南は少し嬉しそうに藤堂に手を差し伸べた。
しかしそんな化け物になって欲しくない久摘葉。藤堂に駆け寄り、その手を握る。

「平助君はちゃんと戻って来てくれました。だからあの薬に負けてなんていません。」

藤堂もその手を握り返して山南に言葉を向ける。

「山南さん、オレ血なんて飲まない。そんなの人のする事じゃない。」

その手の温もりを感じた藤堂はきっぱり断る。
刀を一振りして血を落とせば、それは口だけではないことの証明。
まだ羅刹の狂気から完全には逃れられていないのか、苦しそうにはしているが、それは間違いなく藤堂の姿であった。

「羅刹となりながら人の善悪に縛られている。人から羅刹へ変じたばかりでは変化に対応出来ないのもわかります。
どうしても血を飲みたくないのであれば、これを差し上げましょう。」

残念がる山南だが、藤堂にあるものを差し出す。

「吸血衝動を抑える薬です。その場凌ぎにしかなりませんがね。末期の症状となれば薬程度では収まらなくもなりますが、それでもよければ差し上げます。」

藤堂は最初こそ悩んだものの、覚悟を決めその薬を受け取る。
それは今後も血を飲まないという意思表示とも捉えられた。

「ありがとうございます。山南さん。」

「言ったでしょう?これは情けです。好意だと捉えられては勘違いも甚だしい。今の苦しみなど、後の衝動と比べれば軽いものです。藤堂君も、いずれ私と同じ結論に辿り着くでしょう。」__


山南が去ってすぐ、その症状は現れた。

「ぐっ…ぐあああ!!」

吸血衝動だ。

耳に残る叫び声は想像も出来ないほど苦しそうなものだった。
久摘葉も思わず目を逸らしたくなるような。
それでも助けてくれた藤堂にそんな事は出来なかった。

「平助君、さっきの薬を!」

今の久摘葉には、薬を飲む事を促す事しか出来なかった。
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