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薄桜鬼 群青桜

第22章 羅刹


一歩、また一歩と近付く藤堂の目から光は消え去り、血色に染まった瞳が獲物を捕らえていた。

久摘葉の足はすくんで動かない。震えて声が出ない。

恐怖の中、何も出来なかった。

ただゆっくり近付いて来る藤堂を涙目に見つめる事しか出来ない。

久摘葉の前で立ち止まると血に汚れた刀を久摘葉の首元に向ける。

狂気に満ちた瞳も、血塗れの表情も、満足そうに微笑んでいる。

久摘葉は最後まで藤堂のこの姿を信じたくはなかった。
数多くの血飛沫にも耐えてきたその瞳をついに閉じた。

首元につうっと流れる血の感覚。
ゆっくり刃が差し掛かる。

しかしそれ以上の痛みが久摘葉を襲う事はなかった。
恐る恐る瞳を開けば目の前には颯太。自身の刀で藤堂の刀を弾き飛ばす。

藤堂から武器がなくなった瞬間を見て久摘葉は反射的に思い切り藤堂に抱きつく。
何をしてでも正気を取り戻して欲しかったのだ。

真っ赤に染まった彼を正面から包み込む久摘葉の腕は小刻みに震えていた。

「平助君戻って来て!いつもの平助君に戻ってよ!」

どうして今まで不審に思いながらも気付かなかったのだろうか。
久摘葉は自分を責め続けた。

混乱してうまくは言えなかったが、それでも藤堂は動きを止めた。

力無く立ち尽くして、久摘葉に抱き締められていた。
最初こそ何があったのか理解できなかった様だが、時間が経つにつれ、事の経緯が整理されていく。

全ての辻褄が合うと、自分が今何をしようとしていたのか思い出し、恐怖を覚える。そして藤堂は目を見開くと、静かに人の姿へと戻った。

藤堂は静かに、久摘葉から拒絶するように離れると刀を拾いに行く。

刀を持ってそれをまじまじと見つめれば、鮮血が刃を覆っていた。

全てを理解した藤堂は背を向けたままこちらを振り返る。

瞳に涙を溜めて。

「オレは…お前を守るどころか傷付けようとした。
どんどん人間じゃなくなってく自分が怖い。血が欲しくて…気が狂いそうだ。」

"それでも平助君は正気を取り戻してくれたよ。大丈夫だよ。"
久摘葉はそう言いたかったのに、思いとは裏腹に出て来てくれない言葉。

「黄昏は夜明けに見えて、月は太陽に見える。
人の血を浴びるのが気持ちいいんだよ!」
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