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薄桜鬼 群青桜

第22章 羅刹


そこからは、本当に耐え難い激しい戦いが始まった。

敵兵の数は、とてもではないが藤堂一人が相手をするには多過ぎる。

久摘葉は既に多くの血を目に焼き付け、震える。
目を瞑っていたい。耳を塞いでいたい。
しかし今はそれを許さない戦場。

各々が殺気を放ち、命のやり取りをする。
藤堂もまた同じく、敵を斬り伏せて。

藤堂が庇ってくれるお陰で久摘葉は無傷。
久摘葉を狙う敵も、彼女に刃が届く前に藤堂が斬る。

「お前らの相手はオレなんだよ!目移りしてんじゃねえ!」

守ってくれたとはいえ、すぐ目の前で血飛沫が飛ぶ光景に久摘葉は吐き気さえ覚える。


藤堂は何度も銃弾や刀傷に晒され、それでも尚平然と立っていられるその唯一の理由。

羅刹。

それを知らない久摘葉は、普段なら不審に思うはず。しかしこの状況下でそんな悠長な事を考えられるほど落ち着いてはいなかった。

「大丈夫だって。何があってもお前を守りきる。オレだって、こんなとこじゃ死なない!」

藤堂はそんな久摘葉を宥めようと何度も声をかけながら敵を斬り伏せていく。

今にも泣き出しそうなその表情で、その声に反応して恐る恐る藤堂を見れば、あっという間に傷が塞がる瞬間を目にする。

疑ってしまうような光景を目の当たりにして、目をいっぱいに見開く。疑心暗鬼だけが久摘葉の中に満ちていく。

また一発、藤堂の肩が撃ち抜かれる。しかしそれは全く通用していなかった。

すぐに傷は癒え、今の藤堂にとっては障害にすらならない攻撃の数々。それは何度も受ける事で苛立ちへと変わっていった。

「そんなもん効かねえよ!」

もうこれは、余裕のない久摘葉から見ても明らかな羅刹の姿。白髪となった姿を一瞬目にした。その背中は何処となく悲しそうなのに、それでも血を浴びる事で快感を得ているようにも見える。

久摘葉の知らない羅刹の狂気が、藤堂の笑顔を曇らせる。

その藤堂の姿をどうしても信じたくはなかった。
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